たまには新聞を買う話

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 その日は鬱々とした日でした。昼過ぎまで起きることができず、昨日やろうとしていたことは手つかずのままで、天気は今にも雨が降りそうなくらい分厚い雲が空を覆っていました。

 僕は起きて、そのまま動けずにスマホをとりました。寝すぎた日はたいてい頭が痛くてすぐにはベッドから起き上がることができないのです。ぼんやりツイッターを開き、タイムラインを眺めているとふと、ある一文が目に留まりました。僕は起き上がり、顔を洗って歯を磨いている最中にこう思いました。そうだ、たまには新聞を買おう、と。

 そう考えると少しだけわくわくしました。新聞なんて手に取るのは久しぶりです。実家には置いてありましたが、自分で買うことは、ひょっとして――初めての経験かもしれません。朝ごはんの納豆かけご飯を食べ、オレンジ色のパーカーを羽織って、外に出ました。窓の外から見えた通り、雲は灰色で風の流れが速いのか巨大な物体が忙しなく流れていました。

 コンビニに行くまでには遊歩道を通ります。空が晴れているとタイルを白く照らしてとても気持ちがよい道です。時々、自転車や幼稚園児の集団が横を抜けています。しかし、今日は天気が悪いせいなのか道中にすれ違ったのは野良猫一匹でした。猫は退屈そうに畑を通り、中央に立てられた案山子を見るとなんの感慨もなく走り去っていきました。きっともう少しで雨が降り出すことを予見したのでしょう。

 コンビニに着くと、新聞が並べられたラックは自動ドアの目の前にありました。去り際にこっそりとって行ってもばれなさそうだなと、不謹慎なことを思いながら僕は目当ての新聞を探しました。読売新聞の全国版です。幸い、新聞の種類は少なくすぐに見つけることができました。ラックからそれを抜き取ると僕は「おや?」と思いました。なんだか不思議な感じのする質感だったのです。しかしそんなことは気にせずレジに持っていくと、黒いマスクをしたお姉さんが会計をしてくれました。檸檬二つぶんくらいの値段でした。

 外に出ると、どこかで肉を焼くいい匂いがしてきました。当たり前ですが僕にとっては朝でも、世界は肉を焼いて昼飯として食べる時間です。朝飯でも夕食でもなく。僕の手はちょっと汗ばみました。不安を感じるとぬるりとした粘体の汗が出ます。しかしその日は少し様相が違いました。左手がさらりとしているのです。僕はそういえば新聞を買ったんだなと思いながら、それを小脇に抱えました。その瞬間、僕はなんだか風景に僕が溶け込んだ――ような気がしました。休日、公園で新聞をめくるおじさんがいたと思います。僕はそれの、おじさんが新聞を買い込んだときを想像したのです。

 新聞にはしっかりとした重さがありました。僕はそれを広げてにおい匂いを嗅いでみました。真新しい段ボールのような、大学の誰も使っていない部屋のような匂いです。

 僕は新聞を丁寧に折り畳むと、灰色の遊歩道を歩いていきました。家に帰ったらまず、昨日出来なかった洗濯をしようと思います。

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