世界に蔓延る緑について➁

短編小説

 感情についての考えをまとめていると、僕は中学校のときの、ひとりの女の子を思い出してしまう。彼女についての記憶はいつも優しいような恥ずかしいような気持ちを連れてくる。僕が間違えて欲しくないのは常に記憶が先にあって、そのあとに感情がやってくるということだ。その逆はあまりない。そして思い出を取り出すとき、僕はいつも一人だ。つまり僕は一人でも彼女の記憶を借りることで感情を作ることが出来る。ここで二人で生まれた感情と、擬似的二人で作った感情、それはどちらが正しいのだろう、という設問出てくるのだけど、それは正しいようで正しくない。どちらかを恣意的に貶めようとするする意思が働いているのはやっぱり僕も世界の一部なのだろうか。僕は出来る限り自然な感情でいようとしている。だからさっきの問題を慎重にピンセットで草書体のとめ、跳ねを触るように訳すのなら、どちらが純粋なのだろう、ということになる。もちろん僕はその設問に対する回答を用意していない。

 思い出のなかにいる彼女は茶色がかったボブカットで、よく日に焼けた、笑うと変な箇所にえくぼが出来る女の子だった。言うまでもなくクラスで一番可愛い女の子で、男子全員が彼女に関心を持っていたはずだった。授業中ぼうっと横顔を見てしまう女の子がクラスに一人はいると思う。彼女はそんな女の子だった。そしてここからは推測の話になるのだけれども、その子も僕のことが好きなだったのではないかと僕は考えている。もちろんちゃんとした根拠はあって、僕と彼女には秘密の交流があった。僕たちのクラスが合唱祭で一等を取った次の日、僕は意を決して自分が書いた小説を渡してみた。もちろん迷惑でなければ読んでほしいという言葉を添えて。彼女はにっこり微笑んで受け取ってくれた。それが始まりだった。

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